「ラットマン」道尾秀介 |
「のどの奥のところが黒くてぐるぐるしている感じ」とか、
「なんか漫画を読んでから眠ったらよく眠れる」とか、
「胸の底から明るくて自然に力がでてくる感じ」とか、
娘が自分の心について、そういう表現をする。
私は幼少のころから、理屈で自分を支配することが身を守る手段だったので、
どうしてもどこかしらでちょっとした苦しいとこがある。
理屈が先行して、生身の心のうごきに鈍感なのかもしれない。
この胸の奥、のどの奥に広がる黒いぐるぐるはなんだ.....
泣きそうで立ってられないわあっとした感じはなんだ.....
お腹から力がみなぎり沸き上がってくるこれはなんだ.....
起こったことはひとつなのに、
境遇、考え方、見え方、立場、想い、時間、環境、
それぞれのちょっとした違いで、
物事は意味を変えて人の脳に入り込む。
「情熱大陸」で道尾秀介が、自分の描いている登場人物の感情がよめない、と苦しんでいた。
感情をよむ、感情をよむってどういう事だろう。ピンとこなかった。
「ラットマン」を読んだ。
難しすぎる言葉や練られすぎた設定で読み手を支配しない感じは、
それは逆に読み手への意識の結果で、
奥底のギラギラした部分のあらわれなのかもしれないし、
作者の容姿もあるのかもしれないけど、あくまで読後感はソフト。
でも余韻をひきづっている。
すべてを理屈でいい悪いとふりわけることができないのは自然なこと。
法則性もないし、単純でもない。わざとでもない。なんなのだろうな。
偶然性。それはある種のおとしまえの付け方。そこに安心感を覚えているのかな。
ぐるぐるの正体が自分でもつかめないことに開放感を感じているのかな。
なんか優しい人だなあ、という感じがして道尾秀介が気になるのだ。